研究誌発刊記念論考

鍼医を目指して

二木  清文

  “漢方鍼医会”の設立、本当におめでとうございます。設立までの経過については色々とありましたが、要するに「より良い勉強をしたい、より良い治療をしたい」という気持ちが団結と行動を生んだものと思い、私もその主旨に賛同した一人であります。

  “漢方鍼医会”という名前はとても良い名前だと思います。特に小泉会長も強調されておりますが“鍼医”という言葉が印象的です。通常の三療(盲学校を卒業した人は特に)では慰安的な色合いか濃くて、まぁ医療とは言い難い。その現実が悔しくて、私は強烈な圧迫を受けながらも鍼灸専門の道を学生時代から目指していました。その目の前にあったのが経絡治療でした。

  「何故脉が変化するのではなく脉がどんな変化をもたらすのか、何故治るのかではなく治る為にはどうしたらいいのか」と言う疑問に素直に答えてくれた先輩の治療を受け入れて真正直に取り組めた環境はとてもラッキーでした。

 

  さて、前置きが長くなってしまいました。それでは私が現在「鍼医を目指して」考えていること・目指していることを、生意気ながら少しだけ書かせてください。

  パソコンを購入したいと色々問い合わせている過程で(販売店には申し訳なかったのですが、彼等の失敗だから仕方がないけど)とても意義深い体験をしました。

  アメリカではノーマライゼーションの考え方が浸透していて、パソコンの操作に関しても最初から配慮が成されているのです。つまり、二つ以上のキーを同時に押すような操作が命令を与えるのに不可欠なのですが不随運動のある人や片手しかない人にはそれだけでパソコンが便利な道具のはずなのに遠いものになってしまいます。ところが、キーを押した状態にロックする仕組みになっていたらどうでしょうか?すぐに前述の人達にも使えるようになるのです。警告は音だけでなく画面上にも表示するなら聴覚障害者でも使えるようになります。でも、これは健常者も便利に使えるし有効な機能です。特定の不自由な弱者にとって便利な機能は、他の障害者にも便利であるばかりでなく全ての人達にとっても有効な機能になるのだという考えに基づいてシステムの設計が成されているのです。

  購入に当っては音声出力によるワープロ機能が使えるマシンもあったのですが、将来性を考えてアメリカ製のものを選択しました。販売店にその旨を伝えたのですがなかなか調査結果を報告してくれませんでした。特殊なケースだから独自にも調査をして(弱視)視覚障害者用拡大機能が標準装備されていることを突き止めました。健常者には当然不要の機能なので概要が分からないだろうと貸し出しを希望したのですが駄目で、無理やりに出張デモをしてもらった時に、事件は起こりました。

  入力位置を示すポインタという矢印が表示されているのですが、標準装備の拡大機能では画面の中を移動しているはずのポインタが常に中心にくるようにプログラムされている為に画面が動くように見えてしまいます(ポインタはほぼ固定されている)。これでは健常者にとっては通常と全く逆の画面構成になってしまうので、(使い辛いだろうと解釈をしてくれたとして)自分たちの感覚で拡大のできるソフト(画面はできるだけ固定してポインタが移動する)を持ってきてデモをしたのです。

  さて、結果はどうだったでしょうか?わざわざ「障害者用ツール」として開発されたプログラムが障害者のニーズを無視して作られているはずがないのですから、私は標準装備の拡大機能の方がパソコンの構成を理解しやすかったのです。さらに、白黒を反転表示するにも当然標準装備には機能があったのに、独断でデモをするからそんな簡単なことができずにわざわざ出張してきたのに大恥をかいて帰ることになったのです。

 

  この事件を鍼灸と重ねて考察をしてみましょう。パソコンはとても便利な道具ではあるがいい商品を扱わなければならない。いい商品は売れるはずなのだがデモに来た販売店は「どうやって使ってもらおうか」という配慮が抜けて商品に酔って独断に陥っていたのではないだろうか?私達にもこれと同じ教訓が当て填まらないだろうか?鍼灸はとても優秀な治療法ではあるがより優秀な方法=“経絡治療”を選択しなければならない。経絡治療は繁栄をもたらすはずなのだが自ら優秀性に酔って独断に陥ってはいないだろうか?

  優秀な経絡治療を施すなら患者は治るのですが、それだけでなく「どうしたら患者に治ってもらえるか?どうしたら患者は癒されるのだろうか?」ということを考慮し、実践しなければならないのではないでしょうか。私が鍼医を目指して心がけている一つです。

  とても生意気なことを書きましたが、より良い経絡治療を・治療家を目指してこれからも頑張っていきたいと思っています。



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