ニューサイエンスの考察(2)                            滋賀支部    二木  清文

袋小路の時代

  30周年記念に来日されたフリッチョフ・カプラ先生の「ターニング・ポイント」の中で、「確かに誰でも身近で現代医療により劇的に助かったとか諦めていた症状が回復したという実例を知ってはいるが、あくまでも人体の修理であって健康を回復した訳ではないはずである」とあります。まさに同感です。私は現在の時代を「袋小路の時代」と勝手に名付けているのですが、鍼灸術が自ら絶滅を促進しているとも知らずに厚生大臣指定講習会を行っているのに似て、このまま放っておけば人類は自ら絶滅を着実に促進しているのではないでしょうか?

それを覆せるのがニューサイエンスであり、ホリスティック医療に最も近い経絡治療であると思います。

 

  年頭所感「ニューサイエンスが開いてくれた経絡治療の新たな側面」の中で、総ての現象は下位に向けた全体として性質と上位に向けた部分としての性質の両極性を持つ亜全体(サブ・ホール)てあると捉え、これを「ホロン」と呼び、世界はバラバラの部品から成る機械ではなくダイナミックなパターンとプロセスから成るシステムであることを確認させてもらいました。今回は「ホロン」に見る階層性の原理について補足をさせてもらい、ニューサイエンス的思考を取り入れる利点を考察してみたいと思います。

 

  前回は細胞を例にあげて「ホロン」を考察しましたので、今回も細胞を例にします。細胞はそれだけで充分な特徴を表す自律的全体でありますが、やはり細胞小器官という部分から成り立っているのです。その中でミトコンドリアはATPを生成するところから「細胞の発電所」とも呼ばれ、一つの細胞に500以上も存在しています。普段は細胞活動や細胞分裂に従って従属的であるのに、その仕事に一旦スイッチが入ると自律的にコントロールされるのです。

  ところで、これは一つの細胞内の秩序に限られた話かと思いきや、存じのように組織や器官や身体としてのバランスが取られているのです。我々は生活の中で「この細胞にもう少しATPを生成させようか」なんて考えていません。もし、そんなことをしてたら、いくら時間があっても足りない。これは、上位のレベル(この場合は一人の人間)から遥か彼方の下位のレベル(一つの細胞)を眺めると、殆ど自動的にではあるが自律的に仕事をしてくれるから「人間」が成り立てるのです。

  つまり、階層(組織から細胞等)が下位に向かうほど自由度は小さくなるように見えますが、それぞれが自律的であることから、全体が構成できるのです。驚いたことに、ミトコンドリアや核は、昔は微生物として個別に存在していたにもかかわらず、何らかの利害関係によって「細胞」の中に協生するようになったのです。事実、原核生物であるアメーバー等には老いも死もなく、性別も交尾もないのです。階層性を営むことによって、より高度な進化を遂げることができたのです。

  また、階層性の原理はあらゆる現象に適応できます。これを社会構造に当てはめると、例えば人件費を増額する決定をした時には、実際に執行をするそれぞれの経理担当に大統領が直接に命令することはありません。大統領から通達を受けた執行部が各部所の経理担当を動かすのであり、階層を成しているから全体としての行動が取れるのです。大統領から見れば末端の係員は半自動的に仕事をしているのですが(その様に見えるのですが)、個人としての係員は決してロボットのように仕事だけをしている訳ではありません。

  やはり、総ての現象には自律的全体としての性質と従属的部分としての性質の両極性を持つ「ホロン」であり、「ホロン」が織り重なって階層性を成しているからダイナミックなパターンとプロセスから成るシステムが営める(自己組織化できる)のです。

 

  さて、ここまで書くと「二木は理論家に転出した方がいいんじゃないか」と言われそうですね。何故ニューサイエンスに取り組む必要があるのでしょうか?

  結論から言えば「世界に通じる共通言語を学べる」からです。経絡治療は史上最高の素晴らしい治療法で、毎日の臨床で患者さんと共に幸せを感じ感謝しているのでありますが、残念ながら専門家にしか分からない言語のままです。

  フリッチョ・カプラ先生の名著「タオ自然学」でハッキリ述べられているように、東洋思想と西洋科学の目指しているものは、実は同じ「宇宙の真理」であるのだと思います。例を挙げるなら、易の模様とDNAの組み合わせは完全に一致しているし、宇宙の始まりを共に大極とビッグバンで表現しています。スペースパイロットが宇宙体験を通じて十中八九「神そのものを感じた」と証言していますし、天下のNASAが無重力での薬が作れないので宇宙病に対して瞑想療法を用いているという一見、不思議だが考え直せば当り前のことを違う表現で求めていただけではないでしょうか?カプラ先生や福島先生は、それらにいち早く気付かれ、声を大にしてこられたのです。

  経絡治療家と言えども社会情勢に流されては還元主義に陥りやすく、悪くすれば脱落してしまうし、「客観性・再現性・不変妥当性」を備えた立派な科学的治療ではあるが、本当に人類を救うためには医学的知識によるアプローチだけでは弱すぎる。例えば養生法を指示しようとしても、家人が付き合ってやれるような社会事情でなければならないし、体力作りに適した環境事情でなければならないのに、社会運動家や環境保護家や医療従事者がバラバラにしか主張をしていないので、時代はますます袋小路になる。

  この「袋小路の時代」を超えるための全包括的(ホリスティック)なアプローチが実行できる最短距離に位置するのが経絡治療のです。但し、個人的意見として、「人類が自ら進める進化だ」という目的意識を明確にしておくことが必要だとは思っていますが・・・。

どうやって進化をするのか?それは、誰もが等しく持てる武器『心』の進化、それも「より高次元の『心』    スーパー・マインド」の発動以外にはないと思います。治療室を訪れる患者に経絡治療を施すだけでは、本当に人類を救うことと掛け離れているとは思いませんか?90年4月の研究部外来講師の山下先生も「治療家は国士でなければならない」と発言されていますが、私も真に人類を救うなら経絡治療家も「世界の共通言語」を知り、世界の潮流に発言すべきだと思います。

  人間が「人体という機械の中に住む幽霊」ではないと信じているから、ニューサイエンスは経絡治療と同じ位、大切な私のライフワークとなったのです。これからも投稿が許されるのなら次回以降には臨床を通じての応用例も書いてみたいと思っています。全国の先生方のご批判もお願いいたします。

        参考文献

バーバラ・ブラウン著    「スーパー・マインド  心は脳を超える         (紀伊國屋書店)アーサー・ケストラー著  「機械の中の幽霊」                        (ぺりかん社)ケネス・ペレティエ著    「意識の科学」

フリッチョフ・カプラ著  「タオ自然学」「ターニング・ポイント」  (以上、工作舎)




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