腎石と胆石の鍼灸治療

 

(滋賀)二木 清文

 

はじめに

 最近は食事の西洋化に伴い胃癌よりも大腸癌が増加傾向にあると聞きます。それに伴い腎石や胆石も増加傾向にあります。しかし、超音波破砕術による通院治療や内視鏡手術による入院期間の短縮で、以前ほど大きな病気とは捉えられなくなりつつもあります。ただし、いくらリスクが軽減したといっても事前に繰り返しの検査が必要であり副作用を伴う投薬も必ず行われます。

 いくら短期間になったとはいえ入院はやはり家族の生活まで左右しますし、検査のために通院することで時間が大量に必要となり「激痛で緊急手術は仕方ないとしてもできれば鍼灸で落とせないものか」と相談を受けますし、筆者が鍼灸師でなくとも普段は痛くもかゆくもない結石を健康管理と抱き合わせで鍼灸治療により治癒できればと考えます。それは可能です。しかも確率がよくポイントさえ押さえれば簡便な治療です。

 今回のテーマ「腎石」と「胆石」に限っていえば、即座に効果が検証されますしその劇的さは西洋医学をもしのぐものがあると自負しております。刺鍼時に痛みを与えるような拙劣な技術でない限りはほとんどの読者が再現できるのではないかとも思っています。

 しかし、ここで毎度毎度筆者の原稿に付き物のセリフが出てきます。筆者は脉診による経絡治療であり、まず本治法をしていることが全てに優先されています。本治法を行わない状態での治療経験がないため、局所のみの治療ではパターンを工夫する必要があるかも知れません。それでも鍼灸医学発展のためにあえて「経絡治療」ではなく「鍼灸治療」の題名にしています。

 どうか営業繁栄のために技術の一つを増やすのではなく、患者中心のために技術習得を試みた結果が営業繁栄になるはずという気持ちで追試をお願いいたします。

 

西洋医学的解説

 では、これも毎回のことではありますが西洋医学的解説を「南山堂医学大事典」から引用します。

 

腎石

腎結石

尿中に溶解している物質が析出しそれがさらに凝集,成長し結石となる。尿路内(腎盂,腎杯)にできたものを腎結石といい,X線で腎実質に認める腎石灰化症nephrocalcinosis(腎石灰沈着症*)と区別する。生涯罹患率は100人中4人といわれ,40歳代にピークがみられる。男女比では年々女性の割合がふえ,251である。職業別では医療従事者,事務従事者に多い。尿管結石では激しい仙痛発作をきたすことが多いが腎結石では腎盂内の可動結石以外は腎部の鈍痛程度である。しかし結石が腎盂尿管移行部に嵌頓すると仙痛発作がみられる。時に肉眼的血尿となる。消化器症状を訴えて受診し腎結石がみつかることも珍しくない。診断には単純X線撮影,経静脈性腎盂造影(IVP, DIP)が有用であるがX線像で結石陰影が不明瞭な尿酸結石,シスチン結石にはCT,超音波検査が必要である。腎結石では尿管結石に比べて水腎症の程度が軽い場合が多い。腎杯結石calyceal calculusでは必ずしも結石を摘出する必要がないが,疼痛,発熱,血尿が続くときには手術の適応となる。時に腎杯憩室内に発生した結石もあり,この際には腎杯憩室の悪性変化を伴うこともあるので注意を要する。また,腎盂結石renal pelvic calculusでも長期間結石が存在していたときには扁平上皮癌*が併発することがある。結石形成に対し原因を探るため血清Ca, P,尿酸,24時間尿化学などをチェックすることが重要である。

 

胆石

胆石症

〔発生〕 胆道にみられる結石を胆石と称する。肝内胆管,肝外胆管および胆嚢内に発生 する。わが国では無症状に経過した剖検例で510にみられるが,欧米では15以上にも達している。発生の機構については胆嚢内結石として頻度の高いコレステロール系石cholesterol stoneの生成についてとくに胆嚢胆汁の生化学的研究が進められている。コレステロールは胆汁中胆汁酸およびレシチンの混合ミセルに溶存されており,コレステロールが過飽和になると析出しやすくなる。ビリルビン系石bilirubin s。の発生は,胆汁うっ滞*と胆道感染〔症〕*が主因である。〔胆石の種類〕 コレステロール系石(純コレステロール石,混成石,コレステロール色素石灰石または混合石)は主として胆嚢内に生じる。ビリルビン系石は原則的には肝内・肝外の胆管系にみられる。その他の結石としていわゆる黒色石,寄生虫石,無機石,脂肪酸石灰石があげられる。黒色石は胆嚢内に多発する。日本人の胆石の頻度は従来はビリルビン系石が多かったが,近年では胆嚢内コレステロール系石が増加した。〔診断・治療〕 腹痛,発熱,黄疸が三主徴である。上腹部激痛と右背部放散痛は胆石仙痛*gallstone colicと称し特徴的であるが,コレステロール系石では無症状結石*silent s。として無症状に経過するものもある。最近,胆嚢結石cholecystolithiasisは超音波による診断率が著しく高まった。その他胆道造影法,コンピュータ断層法などを応用する。胆嚢内コレステロール系石には適応を厳密にして経口的胆石溶解薬(ケノデオキシコール酸やウルソデオキシコール酸)が投与される。外科的には胆嚢摘出術,総胆管切開・切石術が結石の所在部位に従って行われ,肝内結石に対してはさらに付加手術が行われる。

 

 

東洋医学的開設

 実のところ、筆者の知識不足から明確な東洋医学の解説が現時点ではできないのです。古典文献の中にそれらしきものが見受けられるらしいですが、それを直接読むことができない悲しさなのか、はたまた逃げ口上なのか。しかし、古代にも結石疝痛はあったはずで、それこそ痛がっている患者を目の前に漢方薬を煎じ始めたのでは間に合わないから、そのような場合には鍼灸が出番であったことは容易に想像ができます。今後この点に関しては調査し、機会を見て報告できればと考えております。

 

小里勝之先生の治験

 ところで筆者が鍼灸で結石の治療ができることを初めて知ったのは、元東洋はり医学会副会長の故小里勝之先生の著書「私の治療室から」を学生時代に読んだ時でした。先生は「杉山流三部書」を盲学校同窓会の世話役の関係で勉強しておられ、たまたま激痛の歯痛で苦しんでおられた奥様に「せっかく勉強をしているのだから経絡を積極的に用いて治療できないものか」と流注から足三里を用いたところ、劇的な効果に魅了され故福島弘道先生とともに経絡治療を全国に広めるに至った方です。

 その著書に元相撲取りの治験例がありました。小便が細いだけでなく痛みがあり、服薬をすると楽にはなるのだが副作用があるというので鍼灸で何とかならないかと治療を開始したとのことです。治療をするとしばらくはいいものの一進一退のある日、「今日は全く出なくなってしまった」と慌てての来院。先生も慌てられたでしょうがその当時はまだ少し視力があったとのことで、本治法の後に苦しいだろうと恥骨上際に刺鍼してみるとペニスがピクンビクンと動いているのが見えたそうで「しめた」と思われたそうです。帰宅させたその夕方に「先生、小便と一緒に石が飛び出してきてそれからスッキリ出るようになった全く詰まっていない」と大喜びで元相撲取りが報告に来たそうです。

 これは想像するに膀胱結石が尿道へつながる付近で詰まっていたもので、全く出なくなってしまったと慌てた時は既に尿道にはまり込んでいて、刺鍼によりペニスが動いたことから小里先生はそれを見切られていたのでしょう。これを読んだ筆者は小里先生の観察力の鋭さもさることながら、尿毒症で命を落とす危険性さえあるのに自信を持って帰宅させられるというハイレベルの鍼灸術に魅了されてしまいました。

 この本を読んでいた時期はまだ価格差保証がなかったので点字の本を学校から担任を通して借りていたのですが、当時は検定試験だったとはいえあまりに夢中でそればかり読んでいたものですから「熱心なのはいいが頼むから検定試験の勉強もやってくれ」といわれる始末。既に経絡治療で身を立てる決心は固まっていましたが、特に印象に残っている話だったのです。

 

 

治験例

 さて治験例になるのですが、筆者は視覚障害者でありながらもラッキーなことに助手を経験しています。脳梗塞や特殊な症例をいくつも体験させてもらったものの、何故か結石だけは遭遇しませんでした。小里先生の著書から頭にこびりついている劇的な効果、患者さんには申し訳ないのですが「早く出会わないかなぁ」と心待ちにしていたものの鍼灸院には結石のみで来院されるケースは、現在でもほとんどありません。自分の得意とする分野の疾患を如何に引き寄せるか、これが営業反映の秘訣の一つかも知れません。

 

どさくさの腎石治療

 しかし、腎石治療のチャンスと衝撃は突然やってきました。学生時代に一生懸命だった盲人野球(現在の名称はグランドソフトボール)に、社会人となって久々に復帰した年の練習中でした。中心選手の一人が責任を果たすために夜中から痛み出していた腎石を座薬で抑えながら参加していたところ、ノックを受けて姿勢を変えたとたんに痛みで動けなくなりました。それまでは柔軟体操で「あっ、座薬がでそう」などと冗談ばかりでしたから周囲も半分本気にしていなかったものの、抱えて歩かすこともできないので困りました。水泳大会の真っ最中のこともありましたしフィットネスクラブに出かけていてのプールで緊急治療をしたことは何度かありましたけど、野球ですから既に握力が落ちていたので待望のチャンス到来ではなく「どさくさ紛れに治療した」という感じでした。

証は腎虚証で復溜・経渠、陽経は豊隆に瀉法と委陽に補法を行いました。この時点で息苦しかったものが改善できたので一安心です。、こちらの握力低下に合わせて鍼管中心での標治法となり、帯脈流注上の刺鍼で姿勢が変換できるようになったので仰臥位で鼠径部(帯脈・五枢・維道・居付近)に刺鍼すると痛みが消失しました。少し時間をおいてからもう一度本治法をやり直し、背部では志室の下方に硬結があるのを改めて発見したのでこれを丁寧に緩めておきました。

 経過は痛みが完全に消失して整理体操には参加し、五日後の朝にコロンと結石が排出されたとのことです。この治療は大変な自信となり、不思議と腎臓結石も持っているという患者が次々と来院するのでおもしろいように落としては心の中で手を叩いて喜んでいました。

 ところがこの選手はあの時の痛みが既に二回目の腎臓結石で、今度はゴールボールというスポーツに出かけていた時にまた激痛に襲われました。今回の腎石で痛み出したのは二週間前で、超音波破砕術の入院治療を予約してはいたのですが体調が戻っているので参加したところに再び襲われた痛みです。腎臓結石に関しては既に多くをこなしているので不安はなかったものの、筆者が練習リーダーを命ぜられていたうえに巨大で重いボールが行き来する中に患者を寝かすのですから、またまたスリル満点です。患者に付きっきりとは慣れないためにこの治療では置鍼を用いましたが、あわやというものはありましたがボールの直撃を受けることもなく痛みは消失して無事に帰宅。鍼灸治療からの期間が短かったので予定通り超音波破砕術での結石除去とはなりましたが、俗に「脂汗をかくほどの痛み」という程度のものでも対処できる自信となりました。

 

一回目の胆石

 次は胆石になります。胆石の痛みを押さえることに関しては腎石の延長ですから既に何例も経験していたものの、完全に落としてしまうということができていませんでした。研修会に参加している明治鍼灸大学の学生から胆経の経穴を活用して胆石を落とす論文があると聞いたことはあるのですが、所在がわからない上におそらく中国語のままでしょうから何か他の資料がないかと模索していたところ、灯台もと暗しというのか自分の身体で体得することになってしまいました。

 筆者の家系は高血圧や癌はないものの結石は全員が経験しており、その前の年末には母親の腎石疝痛で夜中に救急外来へ駆け込むという騒ぎがあり、この時も先に急遽の治療をしておいたので自力歩行が既に可能になっていたことから帰宅が許され数回の鍼灸治療で回復してどさくさ紛れに正月を温泉旅行に変更したりしました(年末・年始なので病院での本格的処置は十日も後からで既に回復済みという今でこその笑い話です)。

 残りの家族は筆者一人だったのですがこの温泉旅行の時点で既に見事な胆石がすくすくと育っており、時々右脇腹に不快な重苦しい痛みを感じていました。秋も深まり掛けた十一月の初旬、特に食事で思い当たるものがないのに腹痛で夜中に目覚めてしまいました。眠れないので姿勢を変えていると動いた瞬間に痛みがピークとなり、余韻が響いているという感じなので胆石が動いているのだと一時間後に判断しました。早速診察して脾虚肝実証にて自己治療を行うと痛みは減退させられるものの完全に止めることができず、段々持続的な鈍く響くような重い痛みとなりゆっくり歩かないと響くのでその日の仕事はあまりはかどりませんでした。

しかし、繰り返し治療すると明くる日には生活に支障のない程度まで落ち着いたので水泳をして石がどのようになっているかを人体実験するという始末。どんなに激しく動いても痛みが変わらないので既に胆管の出口で詰まっていると判断せざるを得ませんでした。

 その晩は覚悟をしていたのであらかじめの治療も功を奏し、五時間の睡眠でも身体そのものは良好な方向へ向かっているように考えていました。実際にその次の日の仕事は疲れは感じるものの歩きやすかったので順調に経過していました。午前はもう少しで終わりなので一度休憩しようとデスクに向かって歩いている時に、脂汗をかく間もなく痛みで息が詰まってしまい、まさにストップモーションでその場で立ち止まってしまいました。

どうやって空いているベッドまで移動したのか覚えていないほどで、なんとか仰臥位になって診察をするとやはり脾虚肝実証なので痛みに耐えながら治療をしました。胆経を瀉している時に何とも言えない響きが腹部まで走り、同時に硬いものが移動していることを感じました。この時点では夢中ですから胆石が動いていること自体は推測されても、排出されている感覚だとはわかりませんでした。そのまま短時間の睡眠に落ち、目覚めた時にはだるいものの痛みはほとんど消失していたので残りの仕事を片づけ、昼食時に再び似たような感覚が二度ほどあったものは胆石が排出されているのだと自覚できました。その後三時間程度発熱していましたが、それが過ぎてしまうと嘘のように体調が元通りとなりました。

 念のために数日後に検査を受けたところ、医者は腎石を疑っていましたが腎臓は綺麗そのもので、胆嚢には炎症が残っているものの結石は発見されませんでした。もちろん胆石が鍼灸で落ちたという話は信用されませんでしたが、その後に手がけた患者の全てが胆嚢から結石が消失していることを視覚的に確認されています。

 

二回目の胆石

 結石ができるのには食事や環境や体質が関連するからで、同じ人が何度も繰り返すことが珍しくないのはやはり食事が大きな要因になっているからではないでしょうか?まぁ癌などの悪性腫瘍を含めて同じ病気を繰り返してしまうのが一般的ですから、原因を特定するのは難しいでしょうけどね。

 一回目の胆石治療から二年しか経過していないのに、また激しい腹痛に襲われました。経験があるのでまだ落ちるには時間が掛かるだろうと助手の練習台になって適当に納めていたものの、その時はまた午前の治療中にやってきました。いよいよ出口に詰まった時の痛みとそれを鍼灸によって排出させる時の瞬間の痛み、思い出しただけでも身震いがします。経験から余裕があったので冷静な観察ができ、経穴に鍼が当たると同時に胆嚢が一気に収縮して排出をしているように感じました。

 しかし、二回目には落とし穴があって腹痛が回復する予定だったのに、一度はほぼ消失した痛みが明治鍼灸大学で経絡治療の自主勉強会をクラブに昇格させたいというので学生の指導に遠距離を出かけて、夜中に帰宅するという強行軍をやってから再び始まってしまいました。痛みは腹部全体に広がり特に右下腹が歩いても前回とは比べものにならないほど極端には深呼吸をしても響きますから慎重に診察し直すと委陽を用いるタイプの脾虚陰虚証だったので急いで治療すると二日間で回復はしました。回復はしましたが自分の身体だったとはいえ胆石疝痛だと決めつけていたこと、痛みが回復するのでその都度の証決定を怠っていたことに猛反省です。

 途中でマックバーネー陽性であることを確認し、虫垂炎によって内臓全体が腫れていたために胆石が過剰反応となったように考察されます。これも検査を受けると胆嚢にはもちろん結石は認められず、虫垂炎の反応はありましたが手術するほどではないとのこと。ちなみにこの時始めて筆者は知ったのですが、歩行時に下腹に痛みが響くかどうかが手術の大まかな目安だそうで、治療をしていなければ手術が必要だったということでした。

 

 

治療のポイント

 それでは治療のポイントをまとめましょう。

 まず大切なことは自分の技量に見合ったものかどうかを判断することです。これを最も的確に行えるのは脉診です。病体が軽傷に見えても子宮外妊娠で危険な状態だったというケースがありましたし、筆者自身のように手術が必要寸前からでも一発逆転の回復をすることも珍しくありません。いや、むしろ今回のテーマは一発逆転を想定してのものですから問診以外にも診察を行い診断することは必須でしょう。結石だという診断ができたなら、どのみち西洋医学でも鎮痛できるまでに数時間は掛かるのですからギリギリまでアプローチをする価値があると思っています。

 次に治療の流れとして本治法により全身調整を先に行うことですけど、本治法を取り入れていない場合でも全身の流れをよくしておくことが必須です。ポイントのみを施術しても効果の保証はとてもできませんし、患者は全身を硬直させて痛みに耐えているのですから全身を回復させてやらないと結石を排除する力は沸いてこないのです。

 もう一つ大切なことは、決して「痛い鍼」であってはいけないということです。前述のように患者は痛みに耐えて全身を硬直させているのですから、そこへ痛い鍼をされたくらいなら地獄の最下層へ突き落とされるようなものです。おとなしく寝てくれるとも限りませんからタイミングを計って刺鍼する必要が生じるかも知れませんし、仰臥位でゆっくり脉診できるとも限らないので術者の五感で診察し治療すると書けば大げさですけど、それだけ刺鍼技術の高さを要求されることは間違いありません。

 

腎石

 証はほとんどが腎虚陰虚証になるでしょうけど、難経七十五難型の肺虚肝実証のこともあります。標治法は横臥位で筆者が提唱させてもらっている「帯脈流注治療」を丁寧に行います。それに加えて脊柱の際が硬結となっているのでこれを丁寧に緩めますが、毫鍼を用いる場合には決して深い刺鍼ではいけません。また膀胱経二行線で志室の下方一寸程度(第三腰椎の外方三寸)に硬結があるはずなので、自発痛がある場合には皮内鍼を・自発痛がない場合には円皮鍼を添付します。

 

胆石

 証はほとんどが脾虚肝実証になります。脾虚肝実証ということは胆経を瀉すことになりますが、まず間違いなく右の懸鐘になるでしょう。帯脈流注治療も大切ですが胆石の場合には脊柱起立筋が硬くなりきっているので膈兪から下を丁寧に緩めますが、これも深い刺鍼は絶対にいけません。そして胆石の場合には円皮鍼の添付が必須で、場所は三焦兪と志室を結んだ線上の中間点と三焦兪の二カ所(右側のみ)になります。

 胆石の場合には即座に痛みが消失することはほとんどなく、使い捨てカイロで患部を暖めることが非常に有効です。これに加えて円皮鍼で痛みを止めて排出されるのを待つことになるのですが、筆者自身の体験でも円皮鍼によりその瞬間まで持ちこたえさせられたから劇的な結果につながっています。

 

 

終わりに

 今回は理論が先にあってそれを臨床追試したのではなく、直感から編み出した技術をなるべく理論化しようとしたものです。未だに理論としては不完全ですが、腎石の場合には物理的障害により津液が貯蔵できなくなっているための腎虚陰虚証であり排尿に障害が起こるということで多方面への影響が大きくなるので帯脈流注治療が効果を上げるのだと思われます。胆石に関しても物理的障害により胆が発熱して肝も引っ張られて暖まってしまい木克土が過剰になっての脾虚肝実証だと考えられ、激痛から不自然な姿勢になるために背筋を緩めなくてはならないのだろうと思います。しかし、円皮鍼がどうしてあのポイントで有効なのかは感覚的に出てきたものなのでわかりません。

 筆者が助手時代には東洋はり医学会北大阪支部に在籍していたので、ディスカッションの中で宮脇和登先生が「腎石のあの痛みはなったものでないと理解できないし薬で痛みが止まった時には『鍼治療なんて・・・』といいたくなるくらいに劇的なものの、根本解決にはなっていないので併用する時には併用も考えなくてはならない」と発言されていました。筆者も薬の併用に関しては緊急の場合や現在のバランスがとても良好であれば併用することに異議なしですけど、どの時点で薬の鎮痛に頼るかの見切りが大切です。鍼灸治療のみの方が早く、しかも根本解決につながります。逃げ場のない火事場のくそ力から会得した治療とはいえ、小里先生の話にあこがれて追い求めてきたものがやっと手に入ったという心境です。鍼灸は仁術でありアートですから、あこがれを持ち続けることがレベルアップの源なのかなぁと筆者は思っています。

 

 ここに書かせていただいたほかにも、まだ臨機応変に対処しなければならないことがあるでしょう。例えば最近の筆者は本治法では100%瑚Iのみでの施術ですし、標治法においても毫鍼を用いている率は極めて低くなっていますが、全く同じだけの効果を得ています。鼠径部への刺鍼も鎮痛目的としては必要を感じなくなりつつあります。

 それから理論面に関してはさらりと流しているだけですが、経絡の特性を深く掘り下げて考察しなければなりませんし証決定の際に最も大切な四大病型については紙数が必要なために全て割愛してしまいました。あるいは皮内鍼と円皮鍼の使い分けに関しても明確な理由を記載するには紙数が足らないので割愛していますけど、用い方を間違えると全く効果が期待できませんので積極的に活用されたい方は(特に自費出版の)参考文献を合わせて熟読ください。

 

     参考文献

「経絡治療の臨床研究 やさしい解説と実践取穴法」 滋賀経絡臨床研究会(自費出版)

「私の治療室から」 小里勝之(小里はり療院)

「古典の学び方(上)」 池田政一(医道の日本)

「帯脈を応用した治療法」 二木清文(移動の日本19985月号)

「下肢冷感への治療」 二木清文(移動の日本19989月号)

 

 自費出版に関してはなるべく電子メールで、筆者まで直接お問い合わせください。

522-0201 滋賀県彦根市高宮町日の出1406

電話 0749-26-4500

E-mail  myakushin2001@hotmail.com




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