臨床報告

 

邪を払うことで、ヘバーデン結節を治せる超簡単治療法

 

滋賀漢方鍼医会 二木清文

 

 今回はていしん治療をしている筆者が、加工も製作もしてもらいやすいていしんだからこそ思いついた工夫により実現できるようになった、瀉法ではなく邪を払うことで痛みが解消できるようになったヘバーデン結節の臨床報告です。報告そのままを再現していただくのならyoutubeからmyakushin2001で検索していただいたヘバーデン結節の動画をそのまま実践していただきたいですけど、二木式邪専用ていしんは応用範囲が広いもののヘバーデン結節のためだけにはちょっと高価なので、代替案についても追記してあります。

 

ヘバーデン結節とは

 

 まずヘバーデン結節が定義づけされたのは、1802年のことです。イギリスの内科医Heberdenが遠位指節間関節(DIP関節)に多発する結節様の膨隆と変形を生ずる疾患を報告し、それ以来、その疾患がヘバーデン結節と呼ばれるようになりました。閉経期以後の女性に多く見られます。

 

 原因不明の変形性関節症に分類される疾患で、鍼灸治療では中年以後の女性が何かの治療と同時に「指が痛くて」と持ち込まれてくるケースがほとんどではないでしょうか。関節の変形が目で見えるのですから、素人さんならこれは整形外科へという発想になってしまうのですけど、炎症のある疾患なので低周波やマッサージは禁忌であり痛み止めが処方されるだけというのがほとんどです。サポーターやテーピングしたりなどもあるようですが、最初は痛みが減弱しても炎症があるのに指を締め付けているので時間経過とともに痛みが再発してきてしまい、結局は対症療法しかないというのが現状です。

 

 あまりに有名な病名なのでyoutubeを少し検索しただけでもわんさか出てきて、丁寧に定義から説明しているものからほぼ宣伝というものまで様々であり、素人さんを余計に悩ませていそうです。最終的に「こうすれば治癒できる」と断言しているものを、見たことがありません。素人さん向けに書かれているブログ記事は恐怖を煽っているか混乱させているかのどちらかで、目的はサプリメントの売り込みのようです。

 

後悔の残る今は亡き母親の症例

 

 私が昭和の終盤で滋賀県立盲学校の学生をしていた頃、確かに指の痛みを訴えている外来患者さんがおられてマッサージをしていた記憶があるのですけど、目立った効果はなく、農作業をされている方がほとんどなので仕方ないのだろうという学生レベルの認識しかしていませんでした。下積み修行時代には、何故かヘバーデン結節に遭遇した記憶がありません。予約制ではなく患者さんの都合で来院するという形式だったので、細かなところをあまり言われなかったのかも知れません。

 

 ところが自分で開業をしてから数年後、私の母親がヘバーデン結節の痛みを訴え始めました。親父の会社の事務はしていましたけど非農家であり、家事一般程度で力仕事はほとんどない生活なのにです。突き指や捻挫の治療に瀉法鍼という道具を用いて効果がすでに出せていた時期だったので全身治療の後に用いたのですけど、鎮痛効果は出せるものの根本的な解決にはとても遠いというのが実態でした。

 

 うまく治療できたときには数カ月痛みが抑えられていたのですけど完全に停止できたわけではなく、指の変形が進行した時期には数日も効果が持続できないという今は亡き母親へ後悔の残る症例となっています。結果的には左右どちらも数本ずつ変形をさせてしまい、変形が固まってから痛みが消失したということになりました。

 

瀉法鍼は超強力アイテム

 

 この瀉法鍼と呼んでいるものは、皮内鍼を考案された赤羽幸兵先生が皮内鍼を貼付した反対側の背部兪穴に強めの刺激を加えることでより効果を高めさせるのに使っていたと聞いています。実は原型が今となってはわからないものでありますが、たまたま下積み修行時代に師匠が集めていた道具類の中に、それがあったのです。

 

 鍼管からわずかに金属部分が突出しているもので、弾くようにして強く打ち込んでも出血はしないという微妙な先端形状と突出のミリ数を再現してもらうのに業者とともに苦心したのですけど、説明からわかってもらえるように気血津液の中でも局所の血を強引に動かせてしまえるという特殊な道具です。「局所の血を強引に動かせてしまえる」ことからにき鍼灸院では物理的な変化がある捻挫や肉離れだけでなく、半月板損傷から剥離骨折や亀裂骨折など単純骨折も平気で治療ができる超強力アイテムなのですけど、当時の私には「変形が進行しているのだから血の変動をコントロールしてやればなんとかなるのではないか」と、ちょっと強引な発想しかなかったようです。

 

二木式邪専用ていしんの誕生

 

 時間は流れて、私が所属する漢方鍼医会ではていしん治療が代名詞になっているように、刺さない鍼での治療をメインに研修していたら段々と自分の手に合わせたオリジナルていしんが欲しくなり制作してもらうのですが究極のものというのはありません。最初に制作してもらったものは竜頭に平面をつけて示指を真っ直ぐに伸ばせるというアイデアを具体化したものなのですけど、ブログを読んで購入していただいた方から「こんなに握りやすくなっている鍼はない」という感想を聞いて愕然です。ていしんであろうが毫鍼であろうが用鍼は指の延長であり、しっかり握っていたのでは思い通りの手法には届かないのです。

 

 そこで「指に力が入りにくい形状でのていしんはどうすればいいのか」を考えると、まずは55mm45mmに短くして本治法でより微妙な操作ができるようにと、サイズダウンさせたものを作りました。手足の五要穴への補瀉は慎重で厳密な手法でなければなりませんから指先により集中しなければならないサイズダウンは大正解で、背部やその他の部位への施術はスピード優先ですから初期モデルの55mmのほうがやはり便利で使い分けが明瞭です(現在の名称は二木式本治法用ていしんと二木式標治法用ていしんに改名しています)。

 

 これは日本伝統鍼灸学会で何度も討議されてきていたことだったのですけど私の臨床では本治法と標治法をさらに明確に分けることができるようになり、滋賀漢方鍼医会内では使い分けてくれる人が出てきました。けれど外部の人が記事を見て購入し直してくれるかといえば、その可能性はほぼありません。なにせ握りやすいことを気に入られているのですから。では、「握りたくても握れないものを」という発想で竜頭が丸くなってバットのような形状をいくつか作ってもらったのですが、いずれも重量オーバーです。ていしんに限らず気の操作を行うには皮毛や血脈の部位を的確に捉えられることが条件なのに、皮膚面が鍼の重さだけで凹んでしまっては皮毛の重さを通り越してしまうのであり、手の重さ以前の問題になってしまいます。結果的にバット形状のていしんは、未だに制作できていません。

 

 ただ、せっかく丸い竜頭の試作品なのですから「ついでだったなら太くなっている竜頭の先端に穴を掘ってもらうと瀉法が簡単にできるようになるのでは?」と、半分冗談で追加の試作もしてもらっていました。出来上がってきたものを皮膚面に当ててみると、形状が煙突のようですから邪気がどんどん抜けてくれますが正気まで同じ勢いで抜け続けてくれるので全身が冷たくなってきそうです。狙い目は合致していたものの瀉法としてコントロールできないので「なかなか二匹目のドジョウはいてくれないなぁ」と、その後数年間この鍼は放置状態でした。

 

 ところが小児鍼をしていたときに疳の虫があまりに強い子供がいたので、効果は出ているのですがもう少し強力にならないかと前述の試作品も用いてみると、皮膚の変化が大きく違います。煙突のようであり先端にはアンテナのような突起もついているので小児鍼としては用いられないのですけど、小児鍼のようなタップをしていく使い方ならより素早く動いてくる邪気だけを排除できるのではないかと直感でき、早速に自分の身体で試していくとその通りだったことに驚愕です。

 

 今まで小児鍼でトントントンとタッピングする鍼の使い方はいくらでもしてきていたのであり、大人の手足に用いても気持ちいいのですからより強力に加工している鍼を背部へ用いられたなら、簡便な上に悪血を散らすこともできるのではないかということで背部は自分の身体で試せないのでタッピングの練習は十分にしてから何人かの患者さんへ頼んで試させてもらうと、予想通りの結果が得られたことにこれまた驚愕でした。

 

 これを機会に「二木式邪専用ていしん」と命名して、瓢箪から駒の3つ目のオリジナルていしんが誕生しました。基本的な使い方の動画がいくつかあります。

 

 もう少しでヘバーデン結節へ話が戻ってきます。WFAS2016で様々な技術を見学させてもらうと頭への施術もあって、「経絡治療という分野はどうして頭への施術が組み入れられていないのだろう」と常々疑問に感じていたものを具体化してやろうというまたまた直感で、邪専用ていしんを用いての「ゾーン処置」と名付けた頭への標治法テクニックを作りました。

 

 人間は天邪鬼であり頭は陽の塊ですから、邪だけを効果的に払えるというのは気持ちいいだけでなく標治法そのものを短縮して効率的にしてくれます(この動画もアップしてあります)。このゾーン処置も含めて、邪というものは瀉法で抜くだけが対処法ではなく外へ出たがっているものも多いので「払ってやる」ことはとても有効だと実感したなら、頭以外でも邪だけを払うことで治療効果が出せるものはないかと考えると苦い思い出のヘバーデン結節が浮かんできました。

 

ヘバーデン結節には「ある種の邪を払う」ことがキーポイント

 

 前述もしたとおり、母親の指で苦戦していた頃は骨が変形してくるのだから血の変動しか考えていなかったのですけど、別に骨折したわけでもなければすべての指に発生してくるものでもなく、何よりある程度変形してしまえば痛みが消失するケースも多いのですから局所の悪血を含めても血の変動だけでは説明ができません。けれど局所である種の邪が停滞していると仮定すれば、痛みが消失したり再開したり変形が進行したりしなかったりと症状が変化することを納得できます。

 

 ある種の邪というのは、寒暖の差だったり労働時の物理的負荷だったり精神的ストレスだったり特定する必要はなく、不可抗力くらいで深く追求しても仕方ないものとすればどうでしょうか? それで邪専用ていしんを痛みが出ていて変形している関節へタッピングしていくと、直後効果こそ薄いものの早ければ治療中に遅くても数回の治療後には痛みが軽くなり、1カ月から数カ月ですっかり痛みが解消してしまうケースがほとんどです。

 

 動画を見ていただければ「えっ、そんな軽く素早くタッピングしていくだけで」という印象でしょう。けれど理論的に「ある種の邪を払う」ことがキーポイントなので、実感ではなく理論通りの施術が優先で、その通りの結果が得られています。術者側の満足で施術していてはいけないという、いい例でもあります。

 

邪専用ていしんがなくても対処できる方法

 

 ちょっと自慢話に偏ってきているので、邪専用ていしんがなくてもそれなりに対処できる方法を書きます。

 

 ていしんを持ったことがある方はおわかりでしょうが、多くは銅で作られています。銅は安価で加工がしやすく、しかも気を通しやすい素材だからです。一番身近にある銅といえば10円玉ですから、10円玉の平面ではなく縦の面を使って少し強くタッピング動作をすればそれなりに邪を払えるのです。

 

 「10円玉ではちょっとなぁ」という場合、銀杏型の小児鍼もしくは小里式ていしんがあるなら、タッピング動作をすればいいのですけど痛みを感じさせないように十分練習してからにしてください。

 

 毫鍼では、それも竜頭がプラスチックのものは気をほぼ通さないのでこれは使えません。邪を払うと言っても気の操作の一部分ですから、刺鍼してという発想が違うのです。

 

 集毛鍼で軽く叩くというのは、これは邪だけではなく「気を間引く」ことになるのでめまいには効果的でしょうが邪を払うことと少し違います、「邪を払う」ことと「気を間引く」ことは理論的に違うのです。

 

 外へ出たがっている邪を払ってやる、それだけでヘバーデン結節の痛みを効果的に除去できるという報告でした。




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