第51回日本伝統鍼灸学会 一般発表

 

「瀉法鍼」による骨折治療について

 

滋賀漢方鍼医会

二木 清文

 

1.目的

 赤羽幸兵衛は皮内鍼を添付した反対側の背部兪穴に瀉法鍼を加え、より効果を高めていた。偶然発見したことからであるが、臨床において局所の血を強引に動かせる「瀉法鍼」により高い治療効果を得たので報告する。高い再現性もある。

 

2.方法

 赤羽幸兵がもちいていたものはその後改良が施され、原本がわからなくなっている。私が用いてきた「瀉法鍼」は鍼管からわずかに丸みを帯びた鍼先が出ているだけで、強く叩き込んでも刺入に至らない微妙な構造である。出血もしない(ここで実物を会場へ配り、垂直に立てて竜頭をデコピンで叩くと説明)。

 少年野球の子供の突き指に偶然用いたところ瞬間的に痛みが解消し、その後の来院でも再現性もあり、他の疾患においての有用性を検討した。刺鍼されないのに深い部分へ影響が到達させられることから、局所の血が強引に動かせるのではないかという仮説が成り立つ。

 

3.結果

 捻挫や肉離れという局所の血の変動を伴う外傷に近いものが、即座に痛みが解消できる。やはり局所の血が強引に動かせているようなので、画像診断もある亀裂骨折や半月板損傷へも応用してみると、これも著効があった。治療現場から導き出されてきたことを理論にまとめ、その理論から次なる応用をしていくことこそが臨床であると私は考える。

 

症例

 患者は30代後半の女性。最初はスケートボードで首を痛めて激痛をなんとかしてほしいと来院。初回の治療では瀉法鍼は用いていないが、残り30%まで回復。三日後に首の痛みがまだ残った状態なのに今度はスノーボードで右足首をひねってしまう。外果周囲が腫れており、ピンポイントで痛みの中心がわかり脈診と打診から亀裂骨折と診断し「瀉法鍼」を行う。

 ここで骨折の診断法だが、直後であれば大きく腫れてくることと痛む箇所が顕著であること、これを確認できたなら離れた箇所から打診してその箇所へ響きがあれば確定となる。時間が経過していたり画像診断では小さすぎて判別できないものも、骨折らしい症状が見受けられたなら痛む箇所を特定してから遠い箇所から打診して響きがあるかで診断できる。加えて臨床の中から両方の寸口が同時に強くなっているものは骨折の脈状だと見つけ出してきたのだが、診察の最初から脈診はするので現在ではほぼ即断できている。この脈診は滋賀漢方鍼医会で臨床応用できている会員がいる。

 症例へ戻り全体治療の最後に瀉法鍼も行い、腫脹、疼痛が軽減し足は引きずるものの、来院時のような片足のみでの移動ではなくなり帰宅。その後に一週間で三度の治療を行い、職場復帰の前に自ら勤務する医療機関で画像診断で亀裂骨折の存在と回復しつつあることを確認。一ヶ月で治癒。

 

4.考察

 肉離れは放置しておくだけでは自然回復はしない。毫鍼でも両端から深く刺鍼しすぎないように気をつけて施術すれば回復できるが、瀉法鍼だと最初から刺鍼されないので施術が安全で確実に治療できる。自発痛を伴い強く鋭い痛みがなかなか回復しないものは筋肉症状ではなく、亀裂骨折の可能性がある。例えばしつこい曲線の痛みは、亀裂骨折の可能性が非常に高い。夜間痛が長く続き前傾姿勢のできない腰痛も、亀裂骨折の確率が高い。いつまでも回復しない足首の痛みも、捻挫ではなく剥離骨折のケースがみられる。伝統鍼灸の基礎技術に「瀉法鍼」を加えれば、局所の血を強引に動かすことで治癒へ導けるようになる。単独で「瀉法鍼」を用いたとして、局所の血は強引に動かせるので一時的にはある程度の効果は出せるだろうが、強引に血を動かしているだけなのでそのまま治癒されるとは思えない。あくまでも全身調整の中での、飛び道具の一つと捉えてほしい。

 もう一つ注意点がある。瀉法鍼は少し衝撃のある施術であるため、そのままでは施術箇所から気が抜け続けてしまうので、表面をローラー鍼で流して気が抜けるのを停止させておかねばならない。ローラー鍼は刺激のまろやかさに大きな違いがあるため、金メッキのものを用いてほしい。

 

5.結語

 「瀉法鍼」は局所の血を強引に動かせ、腫脹や疼痛を軽減させることで捻挫や肉離れだけでなく、亀裂骨折などの治療にも有用である。臨床経験を積めば、相当な程度の骨折も治療できるようになる。レプリカの製作に二十年以上必要だったが、市販品として供給できるようになったので今回発表をした。現在、「瀉法鍼(二木式)」という名称で、入手可能。

 

キーワード

血、瀉法鍼、亀裂骨折、剥離骨折、ローラー鍼




本部および『漢方鍼医』発表原稿の閲覧ページへ   資料の閲覧とダウンロードの説明ページへ   『にき鍼灸院』のトップページへ戻る