半月板損傷と肉離れの治療をビデオでも解説

瀉法鍼の活用例

 この「瀉法鍼」は、「気血津液」の中の血を強引に動かすことのできる非常に便利な道具です。この道具自体が大きな治療力を持っているので、使い方に十分な注意が必要ですが、治療範囲を大きく広げてくれます。

瀉法鍼とは、どんな鍼


 このアイテムの名称が、本当に『瀉法鍼(しゃほうしん)』と呼んでかまわないのかというところが実はあります。皮内鍼を考案された赤羽幸兵氏が、皮内鍼を添付した反対側の兪穴に強めの刺激を加えることでより効果を高めさせていたということで瀉法鍼という名称が生まれているのですけど、原型がどのようなものだったのかが今となっては分からないのです。管理人が修行をさせてもらった 丸尾鍼灸院 の院長先生が持っていたものであり、開業の時に(実は価格が安かったので)一つ同じものを購入しておいたものがここまでのアイテムになるとは思ってもいませんでした。
 上の写真が、現在使っている複製版の瀉法鍼です。長さは一寸で、鍼管の中に太く隙間のない金属が入っており(敢えて鍼とは表現していません)、先端がわずかに飛び出しています。これを管鍼術と同じ要領で竜頭をたたいていきます。そして必ず、ローラー鍼で施術部位の保護をしてから終わります。 ビデオ 瀉法鍼の概要と使い方の概要   youtubeで再生

きっかけは、突き指

 修業時代にこの瀉法鍼を、どのような場面で用いていたのかを覚えていません。決定的な使い方がなかったのだと思います。とりあえず購入しておいたものですから何かには活用したくて胸ポケットへ常に入れていたところ、少年野球で主訴は別だったのですが団体様でしたから騒がしいのでついでの突き指に対して「ちょっと痛い鍼をするぞ!!」と脅かしながら患部へ打ち込んでみると、その瞬間に突き指の痛みが回復してしまったのです。それも痛みが軽くなったというレベルではなく、完全に痛みを感じなくなったのです。これは保護者だけでなく、半分冗談でやってみたのですからこちらも驚きました。
 少年野球のことですから毎日のように何人も突き指をしてきますから、最初は半信半疑ながらも連続で瞬間的に瀉法鍼で回復ができると、段々とそれが当たり前になってきました。ですから、その延長線上で次は足首のねんざに著効がありますし膝や肘の腫れているものにも著効があります。「これは強引に気血津液の血を動かすことができる道具では??」ということで、理論的に血の変動が大きいものへ追試をすると、その手応えです。

瀉法鍼の先端

血が動かせるということは?

 たまたま購入していたものが先端からわずかに出ている突起の大きさが絶妙だったようで、経脈の内部へ響く距離でありながら皮膚を突き破らなかったので血を強引に動かせるアイテムとなっていたのでしょう。それも出血をしないという、複製品を製作してもらうときになかなか安定して再現できなかった微妙な先端の形状です。
 血を動かす方法には、刺絡(瀉血)がありますし難経で説かれている営気の手法もあります。この瀉法鍼はどこが違うのかといえば、全身的ではなく局所的に動かせること、しかも強引に動かせることです。そして治療量の調節が容易なことです。これらが分かってくると、物理的損傷をしているものに対して応用の幅が広がってきました。

半月板損傷への取り組み

 開業の年に高校球児が、「半月板損傷が発生したが選手があきらめられないので治療をしてほしい」と岐阜県から通院してきていて、夏休みが終わってしまうことと通院の大変さから岐阜県の先生にバトンタッチをしたのですけど、その時にはなぜ治せたのかが自分たちで分かりませんでした。特に注意をしていたのは腰の状態を常に気にしていたことと、膝蓋骨周囲の晴れへのやり過ぎない施術でした(この時点では瀉法鍼を用いていません)。この経験は「半月板損傷という病名だけで尻込みをすることはない」と自信になったのですけど、ラッキーなケースだったことが次の症例で思い知らされることになりました。
 運転免許取得中の女子大生が半月板損傷で膝が伸びないということから治療を始めたのですけど、高校球児の例がありますから自信を持って腰への施術で膝は伸ばせるようになったのに痛みが取れません。クラッチが痛くて、とても踏み込めないというのです。歩行はかなりできるようになったのに、どうしても膝へ力を入れることができません。せっかくの自信が揺らいできたのですけど、その頃に瀉法鍼の応用範囲が広がってきていたので半月板も軟骨ですから局所の血を動かせば物理的損傷の回復ができるのではないかということで膝蓋骨周囲へ瀉法鍼を施してみると、回数はそれなりに必要でしたが何でも運動ができるまでに回復をしてもらえたのです。
その後は、膝蓋骨周囲へ瀉法鍼を加えることにより確実に半月板損傷の治療ができるようになりました。ただし、膝関節痛なら何でも瀉法鍼というわけではなく、腰へのアプローチの方がキーポイントになるものも多くあります。半月板損傷であるかどうかの鑑別が重要ですが、西洋医学で診断されるよりずっと半月板損傷は多いものなので注目してみてください。
 診断法の詳しくはいくつかの論文へ収録していますが、脈状として両方の寸口が同時に強くなっていることと、膝蓋骨を真上から抑えると膝蓋骨の下側で痛みを感じることがキーポイントになります。両方の寸口が同時に強くなっているのは骨折の脈状であり、骨折の場合には遠くからの打診で患部に響くという特性と合わせて診断ができ、亀裂骨折や剥離骨折だけでなく小さな離断程度であれば瀉法鍼を用いて普通に治療をしています。小さな亀裂骨折は画像診断で見逃されてしまっていることが非常に多く、頑固な局所の痛みを訴えられるときには疑うことが必要でしょう。 ビデオ 半月板損傷への施術方法   youtubeで再生

肉離れの治療について

 局所の血を強引に動かせるということで、肉離れの治療も簡便に確実に行えるようになりました。筋肉というのは非常に細かな繊維が集まって組織されているものであり、繊維と同じ方向で内部に傷が発生するのが肉離れです。ですから完全にリダンしているわけではないので痛みはあるものの運動そのものはできます。けれど筋繊維はそれぞれ独立をしているので傷口でどうやって隣とくっつき直せばいいのかがわからず、放置しておいても痛みはある程度は軽くなっても自然に治癒はしません。そこで血が強引に動かせる瀉法鍼を持ち出して、肉離れの両端から交互に施術をすれば筋繊維は再び結合をして回復をしてくれます。肉離れでできてしまった溝へ、強引に血を引き込んでくるという理論でやってみて、治療が成功をしました。 ビデオ 肉離れの施術について   youtubeで再生

注意点は?

 まず、局所的に痛みがあるからといって何でもかんでも瀉法鍼を用いると、逆に危険です。確実に「これは血が大きく変動している」ということを診断できたもの以外は、むやみには用 いないでください。それだけ道具そのものが持っている力が強く、やり過ぎると起き上がれないほどの副作用を出すことさえあります。上腕二頭筋が断裂寸前だった患者さんへドーゼ過多を了解の上で修復最優先で治療をしたことがあるのですけど、結果的に手術せず回復できたのですけどその夜は一睡もできないほどの倦怠感を与えてしまいました。
 それから瀉法鍼の後には、必ずローラー鍼もセットで行ってください。経脈の内部へ響くように突起を打ち込んでいるのですから、血が強引に動く反動で気が抜けています。ローラー鍼の軽微な刺激は気の巡りを助けてくれるので、気をコーティングするというイメージで気が抜け続けるのを停止させることができます。
 加えてローラー鍼ですが、必ず金メッキを用いてください。学会での業者展示ブースで業者の方も交えて比較をした結果、クロームメッキと金メッキでは刺激の鋭さに明らかな差があり、まろやかな刺激で背中などへ用いることも考慮してほんの僅かの価格差ですから、必ず菌のローラー鍼にしてください。患者さんのウケも良くなりますし!?

 ・瀉法鍼の入手については、 大宝医科工業(広島の紹介ページから) より電話注文で入手していただけます。「にき鍼灸院のホームページを見た」と伝えください。


治療ポイントあれこれのトップへ戻る   『にき鍼灸院』のトップページへ戻る