1. タイトル

 二木式奇経鍼を用いた「操作」手法の有用性、肩甲骨内側操作は今後の要点

 

2. 結果について

 現在まで8回の治療をしていて、自発痛はほぼ消失しているもののまだ火によっては仕事中に痛みを感じることがある。大好きな筋トレについては、少し再開できたところ。継続中

 

3. 診察について

 

  3.2 主訴

 患者は25歳、男性、消防士。家族が来院しているので学生時代からの来院経験があるのだが、前回は四ヶ月前にベンチプレスをしていて三角筋を炒めたということから肉離れの治療をしている。

 四ヶ月後に来院をしたならあまりに左肩関節を中心に痛みがひどすぎて、大好きな筋トレも中止しているのだが痛みが取れない。整形外科には相当に通院しているものの効果がなく、やっぱりもう一度治療を受けてみようと来院。仕事は痛みを堪えてなんとか続けているものの、相当に辛く救急搬送のときでも痛みで手を離したくなることがしょっちゅうになってきている。

 

  3.3 その他の愁訴

 四ヶ月前に治療をしたとき、軽い肉離れだが複数回は治療が必要だと告げたものの交代勤務なので予約はまた電話を入れるということで、今までの治療経験からそれで了解したのは間違いだったとお互いに反省することになった。

 

  3.4 四診法

 筋トレ大好きの筋肉質で、ハキハキしているのだが思い詰めたような口調でもある。とにかく痛みが増悪して仕事まで辛く、どこが痛むのか自分でもわからなくなってきてしまっているとのこと。腹診は腹筋が割れているほどだが、内臓下垂が若干認められる。

 脉診は浮・数で、右の寸口と関上が同時に盛り上がり空虚ということで、この脈状は肉離れに見られるものでまずは四ヶ月前のものが治癒しないままに経過していることがわかる。また左の関上が突き上げてきていて痛みが強いことがわかり、脈診だけで脾虚肝実証だと予測できる。

 

4. 考察と診断

  4.1 西洋医学や一般的医療からの情報

 整形外科では、若いのでリハビリに通院すれば回復するとしか言われなかった。局所の検査はしていただろうが異常なしということで、痛み止めと湿布を処方されているだけだった。最近の整形外科の当たり障りのない対応ではあるものの、責任を取ろうともしない姿勢には同じ医療人として怒りを感じてしまう。

 

  4.2 漢方はり治療としての考察

 強い痛みは少陽経まで入り込んだ熱が肝も温めてしまっており、木剋土が働いていることと内臓下垂も認められること、脈診からも脾虚肝実証は動かしがたい。時邪を応用した切り分けツールで確認しても陰経側で脈は落ち着き、少し沈むことから邪気論での証決定が示唆されていた。

 肉離れの正しい定義は難しいのだが、ベンチプレス中に痛みが走った程度からここまで悪化するとは考えにくく、痛みを我慢している間に別の箇所に何かしらの硬結を自分で作ってしまったものと推測できるが、この時点ではまだ具体的なものはわからなかった。。

5. 治療経過

  5.1 初診時の治療

 まず挙上制限があったので任脉操作を行い、すぐ可動域が改善したことに驚かれる。脾虚肝実証で左太白に衛気の補法、左光明に営気の補法。側頸部に邪専用ていしんでナソ治療を行い、菽法の高さに脈が落ち着いたことを確認。左三角筋の肉離れに瀉法鍼を行い、経絡循環のため約半時間そのまま休ませます。後半の標治法は背部に散鍼からゾーン処置・ローラー鍼・円鍼を行い、腹部の無の治療も行い一旦終了。

 ベッドから降ろして左腕を確認させると、痛みはあるもののスムーズに動き始めているのですが、一番つらい奥の方の痛みがありうまく表現できないといいます。どういうタイミングで出現してくるのか何度かやり取りしていると救急搬送のときのような爆発的に力を入れたときのようだというので、手近な荷物を持ってもらいましたが全くレベルが違うというので電動ベッドを持ち上げさせたなら、そのつらい痛みが再現されました。これで現在のつらいものは肉離れからのものでないことが確定できたので、座位で肩甲骨外側操作を行うと奥まで響くのですが、とても気持ちいいと言います。その後また電動ベッドを持ち上げさせると痛みが半減していたので、整形外科の処置では全く効果がなかったことを納得してくれました。

 

  5.3 継続治療の状況

 四回目までは非番ごとに治療をして、自発痛を抑え込みこれで仕事はつらくなくなる。けれど大好きな筋トレができるにはどうしても奥の痛みが残るというので、肝実証もなくなっているので今ひとつどこかで経絡の流れを阻害しているものが残っているのだということで五回目に患者と一緒に調べていくと、肩甲骨の外側ではなく内側が盛り上がっているのは筋肉質からのものではなく痛みを我慢していたためのものだとこの段階でやっと判明。盛り上がるほどの硬結というのはやはり強烈で、気持ちいい痛さではあるものの身をよじる強さでもあるため短時間しかできない。

  六回目では痛みの消失する時間が出てきたもののまだ筋トレをする勇気がなく、肩甲骨内側操作は強烈すぎるということで途中で一度休憩を入れると、これは患者への負担が少なくなるだけでなく何度か確認ができるので好都合となる。そして、一度休憩を入れることは阻害されていた経絡が流れ出せるようで、二度目・三度目と効果が増大してくる。経絡は循環することが最も大切なことであり、連続で施術を続けるよりも途中で合いの手を入れることは患者・治療家のどちらにも有益だと感じた。これは本地方と標治法の間に半時間の休憩を挟むことで効率的に治療をしてきたことと同じなのだが、ちょっと盲点を疲れた感じがした。

 

6. 結語

  6.1 結果

 現在も治療継続中だが、やっと筋トレを再開できる目処がついた。配属転換で一日の出動回数が多くなり身体の負担が大きくなったとのことだが、治療で痛みが悪化することなく経過できているという言葉も聞くことができた。

 

  6.2感想

 ていしん治療というのは刺さらない鍼なので極めてソフトではあるものの、固くなり流れを阻害しているものに対しては押し流すような施術も当然必要である。逆に言えば当たり障りのない中途半端なアプローチが一番治療としては下手であり、しっかりメリハリを付けなければあらゆる症状に対処はできない。ていしんの文字は「皮膚を凹ますようではいけない」という意味があるのだと聞かされてきたので、素直に信じてきて本治法においてはその通りだと実感するのだが、せっかくなら全て刺さらない鍼で治療をしてやろうとすると無理も出てくる。それなら「押さえつけることを目的にしたていしんを作れば」ということで、奇経の一経治療の研究を求められたときに二木式奇経鍼というものをほとんど直感で制作してもらったのだが(奇経については今回は省略)、実はここまで強く押さえつけることを想定していなかった。しかも押さえつけるだけでなく、それを細かく動かすということなど。けれど、ここに4mmというていしんとしては太い直径サイズが生きてきて、「そんなに押さえてもらったなら先生の親指が痛くならないですか」など何度も聞いたように、受けている側には遥かに太いものが当たっている感触であり、これは自分が受けてみてもそう感じたのだから鍼の効果というものの大きさをここでも感謝している。




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